バイオシミラーは、がん治療において不可欠な存在になる

腫瘍学と血液学の治療薬の将来を展望するレビューは、バイオシミラーのこの分野での存在感が強くなってきていると強調している。これらの薬剤ががん医療に与えるインパクトは、その普及における課題を克服できれば、大きなものとなるであろう。

生物薬品(生物学的製剤)は、進行性の固形がんや血液悪性腫瘍の治療の要となるものである。しかし、構造的に複雑で開発・製造コストが高く、生物学的製剤の治療費は高止まりしている。様々な抗がん剤の特許が切れたことにより、バイオシミラー(高度に類似した生物学的製剤)の開発が可能となり、規制当局から承認されるようになった。バイオシミラーは、承認経路が簡略化されており、開発コストが低いため、通常、市販後の薬価が割安である。

欧州医薬品庁(EMA)と米国食品医薬品(FDA)は、バイオシミラー候補品とその参照製品の同等性を確立するために段階的アプローチをとっており、様々な分析試験、前臨床試験、臨床試験が実施される。これらの試験により、バイオシミラーの薬物動態および有効性が参照製品と統計的に同等(または非劣性)であること、そして安全性、薬力学および免疫原性に差がないことが確認される。これらすべての調査から得られたエビデンス総体が、バイオシミラーとオリジネーターとの間に臨床的に有意差がないことを示す場合、規制当局はバイオシミラーを承認する。外挿は、オリジネーターの生物学的製剤が有する追加の適応症に対する認可で、科学的正当性を示すエビデンスがある場合、規制当局によって考慮されることがある。例えば、抗CD20抗体リツキシマブの作用機序は、この表面タンパクを発現するB細胞の溶解であることから、欧州医薬品庁(EMA)は、リツキシマブのバイオシミラーCT-P10が他のCD20陽性がんに対しても治療効果を発揮するとの見解の下、これらの適応症を外挿した。

現在までに、がん治療用として承認されたバイオシミラーは、一般的にオリジネーターが有するすべての適応症について承認されている。また、並行した検討の結果、慢性的な患者についても、治療成績に影響を与えることなく生物製剤からバイオシミラーへ切り替えることが、互換性に関する国や地域の規制という条件はあるが、より広く受け入れられるようになっている。ただし、切り替えに関する決定は、医師が主導すべきである。この分野でのさらなるデータ収集が強く望まれる。

新しいバイオシミラーが利用可能になり、直接的な経費削減の可能性だけでなく、代替となる生物学的製剤/バイオシミラーの選択肢間の競争が活性化し、価格を押し下げ、こうした重要な治療に対する患者のアクセスが向上されることが期待される。バイオシミラーの効果を最大限に発揮させるためには、バイオシミラーの市場化と普及を阻む障壁に対処しなければならない。

重要なポイント

バイオシミラーの簡素化された承認経路は、市場価格の低減につながっている。がん治療用として承認されたバイオシミラーは、通常、オリジネーター製品が有するすべての適応症で承認されており、直接的な経費削減や生物学的製剤/バイオシミラーの選択肢間の競争の活性化が期待される。バイオシミラーの市場シェアを拡大するためには、現在の導入における障壁に対処する必要がある。

EUの規制の枠組みから見たバイオシミラー開発における新たな動向は、患者のアクセスを改善する可能性がある

2005年以降のEUにおけるバイオシミラー関係規制の変遷を評価すると、これらバイオテクノロジー医薬品を取り巻く環境変化について、興味深い洞察が得られる。

バイオシミラー医薬品の販売承認申請(MAA)に関するEUの規制枠組みは、主に欧州医薬品庁(EMA)が発行するガイドラインによって構築されており、欧州委員会の法的指令を補完するものとなっている。20年間にわたり、この規制枠組みは、慢性疾患、衰弱疾患、生命を脅かす疾患の分野における、バイオシミラーの販売承認申請の着実な増加を促してきた。

EMAのガイドラインは「生きた文書」であり、時間の経過とともに相次いで改訂・再発行されている。傾向として、臨床的な有効性確認試験に対する重点の度合いが下がり、物理化学的な類似性試験によるエビデンスがより受け入れられてきている。これは、バイオシミラーに関する知識と経験が蓄積され、繰り返しで不必要と思われるデータ収集に対する厳格さが徐々に緩和されていることを示唆している。非臨床のin vivoデータによるエビデンスへの信頼が高まり、薬力学的マーカーをサロゲート臨床効果エンドポイントとして使用する方向にシフトしている。2018年以降に販売承認を取得したペグフィルグラスチムのバイオシミラーなど特異性の高い製品については、第III相臨床試験を必要とせず、好中球数の絶対 値に基づいて健康なボランティアで生物学的類似性が確認された。

適応症の外挿は、バイオシミラーが同等のPK/PD類似性、免疫原性、安全性データを実証した場合、正当であれば認められる場合がある。バイオシミラーの中には、有益な効果について不確実性がある場合など、適応症の外挿が制限されたものもある。しかし、これらのバイオシミラーは、製品のライフサイクルにわたるリスク管理計画での追加モニタリングを条件として承認される可能性がある。

EudraVigilanceは、市販後のバイオシミラーに関連する有害事象を報告し、バイオシミラー発売前のオリジネーター製剤で確認されたものと比較する。差異が確認された144件の報告のうち、18件は承認前のみ、84件は承認前と承認後、42件は承認後のみで、うち9件は予想外の発生の報告であった。さらなる調査が必要と考えられる深刻な「シグナル」の因果関係解析では、バイオシミラーに関連する新たな安全性懸念は生じなかった。

バイオシミラーを承認した規制当局の判断を受け、ガイドラインは更新されている。開発プログラムの合理化は、新たに承認されたバイオシミラーの確固とした品質、安全性、有効性に顕著な影響を与えない。EUの枠組みにおける承認経路の短縮は、患者の医薬品へのアクセスの早さにつながっている。

重要なポイント

欧州医薬品庁(EMA)の規制枠組み文書は、時間とともに継続的に進化しており、バイオシミラー承認においてアップデートされたプロセスを提供している。その結果、バイオシミラー医薬品の承認経路は合理化され、患者の早期アクセスにつながっている。

トラスツズマブのバイオシミラーABP 980は、長期LILAC試験に登録された患者の心毒性において、基準製品と同等の安全性を有する

要旨出版日:2021年8月
心毒性は、トラスツズマブの適用における最も重要な制限であり、トラスツズマブのバイオシミラーの安全性を評価する際に監視すべき最も重要なパラメータの一つである。

トラスツズマブ(ハーセプチン®)は、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)を過剰に発現している早期および転移性乳がん、また転移性胃がんの患者に対するゴールドスタンダードの治療薬である。第3相LILAC試験では、HER2陽性の早期乳がん患者において、ABP 980はトラスツズマブ基準製品との生物学的類似性を有し、両製品間に臨床的に意味のある差がないことが示された。ABP 980は、総合的なエビデンスに基づき、トラスツズマブ基準製品と同じ適応症で欧州医薬品庁(EMA)に承認され、その後、米国食品医薬品局(FDA)からも承認された。

心毒性は、トラスツズマブにおける稀とはいえ深刻な課題であり、HER2阻害に関連している可能性がある。LILAC試験では、患者は、外科的切除に先立ち、ABP 980またはトラスツズマブ基準製品をネオアジュバントとして4サイクル投与され、その後、3週間ごとにいずれかの薬剤を1年間投与する地固め療法に無作為に割り付けられた。心臓の安全性を監視するために、来院時に毎回、心電図と2D心エコー図を実施した。

全体として、左心室駆出率(LVEF)の顕著な低下は認められなかった。試験期間中にABP 980またはトラスツズマブ基準製品を投与された患者、および術後補助期にトラスツズマブ基準製品からABP 980に切り替えた患者では、それぞれ2.8%、3.3%、3.5%の患者にLVEFの低下(10~50%)が認められた。治療群間に有意な差はなかった。さらに、心不全の発生率は3群間で同等であり、それぞれ2.2%、0.5%、1.2%であった。LVEF低下症例の大部分は無症状であり、1年間の試験でLVEF低下を示した患者のほとんどは、ベースライン時に高血圧や不整脈といった心血管疾患の既往があった。ほとんどの心不全報告はグレード1または2であったが、重篤な有害事象に分類されるものはなかった。

LILAC試験では、トラスツズマブのバイオシミラーABP 980を1年間投与した結果、心毒性の発生率は低く、治療群間で、LVEF低下率に臨床的に意味のある差は認められなかった。心毒性は、トラスツズマブの適用における最も重要な制限である。したがって、本試験で観察された許容可能な安全性と忍容性のプロファイルは、治療を開始する患者やトラスツズマブ基準製品からの切り替えを検討する際に、ABP 980が有用な選択肢となることを示唆している。

重要なポイント

トラスツズマブは、HER2を発現するがんに対するゴールドスタンダードの治療法であるが、心毒性のリスクの上昇を伴う。バイオシミラーABP980は、基準製品との生物学的類似性を示し、トラスツズマブのバイオシミラーへの切り替えによるリスクの増加はないことが示唆された。

ヒューストン総合がんセンターが、バイオシミラー製品の評価と導入のための標準的なアプローチを開発

要旨出版日:2021年8月
バイオシミラーの評価と同化のための標準的なアプローチを開発することで、既存のワークフローへの統合を効率化することができる。ある総合がんセンターが、バイオシミラーの状況を把握できるよう導き、バイオシミラーへの移行を支援し、他の施設が指針として使えるような実践的な考察を紹介している。

バイオシミラーとは、臨床的に意味のある差がなく、基準製品に極めて類似した生物学的製剤のことであり、バイオ製剤価格競争・インベーション法(BPCIA:The Biologics Price Competition and Innovation Act)の批准により、米国市場への参入が認められた。このような安価な医薬品へのアクセスは、米国における総医薬品支出を10年間で240億ドルから1,500億の範囲で削減し、生物学的製剤の総支出も、それに伴って約3%縮小すると予想されていた。しかし実際には、バイオシミラーの使用量は生物製剤全体の3分の1にも満たない。

がん患者に対しては、医療機関は、治癒目的よりも緩和や支持療法にバイオシミラーを使用することに前向きである。がん領域のバイオシミラーの普及を阻む要因としては、安全性や有効性に対する処方者の懸念、価格や契約の問題、代替性や互換性に関する法規制などが考えられる。これらの障壁は、切り替え試験に関する処方者への教育の充実、代替品に関する米国食品医薬品局(FDA)の明確なガイダンス、フォーミュラリーポリシーの刷新を通して効果的に克服できる可能性がある。また、実践的な観点からは、運用面でのバイオシミラーへの移行に、時間的、金銭的投資を惜しまないことが求められる。

上記の理由から、テキサス州ヒューストンにある総合がんセンターが、バイオシミラーの導入を選択したことで学んだ戦略、課題、教訓を報告している。

このがんセンターでフォーミュラリー追加目的で評価された最初のバイオシミラーは、造血成長因子であるフィルグラスチム-sndzだった。予備評価では不採用に終わったものの、その後、医療費の払い手の方針変更とコスト削減機会の拡大、市販後安全性データの発表が重なったことを機に再評価が行われ、基準生物製剤のフォーミュラリー削除と同時に、バイオシミラーの完全導入が行われた。このプロセスにおけるフォーミュラリーの見直しは、以下のステップで行われた。まず、費用、適用範囲、アクセスを評価し、次に、依頼した医師、薬局、P&T委員会、購買担当者を巻き込み、バイオシミラーの使用に向けたフォーミュラリーの準備が行われた。

この方法で、がんセンターは、効果的なタイムラインでバイオシミラーへの移行を実現させた。

重要なポイント

トラスツズマブは、HER2を発現しているがんに対するゴールドスタンダードの治療薬だが、iが伴う。安全性や有効性に対する懸念、価格や契約の問題、代替品や互換性に関する法規制など、治療におけるがん領域のバイオシミラーの使用拡大には、多くの障壁がある。切り替え試験に関する処方者への教育の改善、代替に関する米国食品医薬品局(FDA)の明確なガイダンス、フォーミュラリーポリシーの刷新が、これらの障壁を克服し、バイオシミラー導入への移行開始に役立つかもしれない。