要旨出版日:2021年8月
バイオシミラーへのアクセスを改善し、医療システムで費用削減を実現させるために、様々な取り組みが行われている。このレビューでは、これらについて、最近の取り組みのいくつかを紹介する。
支持療法を必要とするがん患者へのバイオシミラーの使用は大幅に増加すると予測されるが、バイオシミラーを臨床現場に導入するには、様々な課題が残っている。
エポエチンαは、化学療法を受けている患者のヘモグロビン値を改善し、輸血の必要性を減少させるエリスロポエシス刺激薬(ESA)である。2007年に欧州で最初のバイオシミラーが発売されて以来、世界中で多くの短時間作用型および長時間作用型のバイオシミラーが発売されており、その有効性は明らかに類似している。英国では、バイオシミラーESAの導入とそれに伴う費用削減に伴い、国立医療技術評価機構(NICE:National Institute for Health and Care Excellence)が、その費用対効果に対するスタンスを見直し、2014年には、国民健康保険(NHS)での償還を承認した。同様に、欧州と米国で、バイオシミラーのフィルグラスチムが受け入れられ、使用が拡大している。
バイオシミラーをがん領域の診療に導入する利点は知られているが、多くの処方者は、確信が持てないでいる。医療従事者が知識不足を感じている分野としては、バイオシミラーの承認プロセス、ファーマコビジランス、外挿性や互換性の概念などが挙げられる。また、患者、介護者、一般市民もバイオシミラーに否定的な可能性がある。そのため、ファーマコビジランスやファーマコエコノミクスのデータを継続的に収集・発信するとともに、専門学会や政府機関など多くの機関が、医療従事者や患者を対象とした、質の高い教育リソースを提供している。
また、バイオシミラーの委託や償還の方法の違いも、バイオシミラーの普及に影響を与える。価値に基づく医療制度のように、競争と持続可能な価格設定を促す医療政策は、メーカーがバイオシミラー市場への投資を継続することを可能にする。英国のCancer Vanguardプロジェクトは、バイオシミラーの導入を促進するイニシアチブの良い例を提供している(この場合はリツキシマブ)。このプロジェクトには、ステークホルダーの参加や教材、財政的なインセンティブ、導入目標などが含まれており、実際に、バイオシミラーのインフリキシマブは、12ケ月で90%の市場シェア獲得に成功している。
支持療法におけるバイオシミラーへのアクセスを向上させるためには、様々な既存障壁へ対処する必要があることは明白である。例えば、規制、委託、償還手続きの標準化、製品の入手のしやすさ、そして何よりも、バイオシミラーの幅広い有用性に対する理解を深めることが挙げられる。
重要なポイント
処方者や患者のバイオシミラーに関する知識は不十分であることが多く、治療における受容性の低さにつながっている。複数の分野(承認プロセス、ファーマコビジランス、外挿性・互換性など)で知識のギャップがあり、バイオシミラーの採用が増える前に対処する必要がある。競争と持続可能な価格設定を奨励する医療政策は、メーカーのバイオシミラー市場への投資継続を確実にする。
要旨出版日:2021年8月
バイオシミラーとその基準生物学的製剤との生物学的同等性は、規制当局が要求するように、徹底的な臨床試験によって証明されなければならない。このプロセスの一環として、本研究では、認可されたコンピュータソフトウェアモデルを用いて、ベバシズマブのバイオシミラーとそのオリジネーターのPK値の比較可能性を評価した。
ベバシズマブは、血管新生(腫瘍の成長と生存に必要な新しい血管の形成)を阻害する遺伝子組換えモノクローナル抗体で、非小細胞肺がん(NSCLC)を含むいくつかのがんの治療に用いられている。PF-06439535 (ZibarevTM) は、ベバシズマブのバイオシミラーで、分析、前臨床試験、臨床試験など広範な開発プログラムが実施された。
臨床では、ベバシズマブは体重に応じて投与され、一定速度で静脈内に注入される。その後、この抗体医薬品は全身に分布され、治療効果を発揮するとともに、酵素分解や排泄などの代謝を経て排出される。これらの過程は、薬物動態(PK)パラメータである薬物クリアランス(CL)と分布容積(V1)で表され、二つのバイオシミラー医薬品では、同じ値になることが望ましいとされている。
包括的な比較試験で明らかになった、ベバシズマブのバイオシミラーと基準のベバシズマブとの間のPKの違いの可能性が、集団モデリングの手法を用いて調査された。この無作為化臨床試験では、NSCLC患者に、PF-06439535またはEU供給のベバシズマブ(bevacizumab-EU)のいずれかを投与し、ともに4~6サイクルの化学療法を併用し、1年間追跡調査を行った。各サイクルの前後に血清サンプルを採取し、ELISA法によりベバシズマブ(PF-06439535またはbevacizumab-EU)の濃度を分析した。これらのデータはプールされ、カスタマイズされたコンピュータソフトウェアを用いて、有効な集団PKモデルにより解析された。
全般に、このモデルは、全患者において観察されたベバシズマブの縦断的な濃度時間プロファイルを、うまく再現した。このモデルでは、NSCLC患者において、PF-06439535とbevacizumab-EUの間で、CLとV1に顕著な差がないことが確認された。これらの知見は、バイオシミラーPF-06439535と基準医薬品であるベバシズマブとの間のPKの類似性を示す、新たな裏付けとなる。
重要なポイント
ベバシズマブのバイオシミラーPF-06439535は、薬物のクリアランスおよび分布容積のいずれにおいても、基準製品と比較して、臨床的な差異は認められなかった。
要旨出版日:2021年8月
国際的には、少なくとも8種類のブランドの低分子ヘパリン(LMWH)が販売されているが、どの低分子ヘパリンのバイオシミラーをフォーミュラリーに入れておくべきか?
現在、臨床現場では直接作用型の経口抗凝固薬に取って代わられているが、エノキサパリンなどの低分子量ヘパリンは、静脈血栓塞栓症のリスクがあるがん患者や、妊娠中のプロフィラクシスとして選択される薬剤であり、広く処方されている。
米国では、低分子量ヘパリンの後続品はジェネリック医薬品と見なされているが、EUでは、バイオシミラーと見なされている。低分子量ヘパリンのバイオシミラーの新規申請に対する欧州医薬品庁の承認プロセスでは、複数の非臨床試験および臨床試験の実施が規定されている。前者は品質比較を含み、後者は、少なくとも健康なボランティアにおいて、抗FXaおよび抗FIIa活性(抗凝固療法のモニタリング)と、組織因子経路阻害剤(TFPI)の放出を調べる薬力学試験が要求される。患者における安全性および免疫原性の評価は必須だが、専用の比較有効性試験は必要ではない。承認されたすべてのバイオシミラーと同様に、欧州医薬品庁の承認手続きの中で、ファーマコビジランス/リスク管理計画が必要である。
ほとんどの低分子量ヘパリン製品は、豚腸由来の未分画ヘパリンから調製され、必要な分子量まで部分的に解重合される。この解重合プロセスにはいくつかの方法があり、その結果、異なる低分子量ヘパリンジェネリックとバイオシミラーの間で、わずかな構造上の違いが生じる。しかし、これらの製品は、すべて同じ適応症で承認されている。
エノキサパリンの生物学的類似性試験が三回実施されたが、いずれも、製品は生物学的に同等であると結論づけられた。さらに、EUにおける低分子量ヘパリンのバイオシミラーのファーマコビジランスでは、安全性に関する警告は出ていない。
では、どの低分子量ヘパリンをフォーミュラリーに入れておくべきか?あるオランダの臨床薬剤師グループとクィーンズ大学ベルファストの研究者グループは、System of Objectified Judgment Analysis (客観的判断分析システム、www.sojaonline.com)という名前の、フォーミュラリー採用決定モデルを考案した。このモデルは、P&T委員会や治療委員会の投票者が、入手可能な各製品を評価できるよう、重要な重み付け要素を体系化し、最高点を獲得した製品を採用するよう推奨している。この仕組みでは、不純物の最新分析テスト、第III相臨床データ、予防および治療用の投与形態、魅力的な価格を持つ製品が、高得点を獲得するようになっている。低分子量ヘパリンの導入において、このモデルは、方針決定を強化するために、分かりやすく透明性のあるプロセスを提供する。
重要なポイント
低分子量ヘパリンは、抗凝固療法を必要とするがん患者に広く処方されている。今回発表されたSystem Objectified Judgement Analysisモデルは、どの低分子量ヘパリンのバイオシミラーが、最も費用対効果が高く、医薬品フォーミュラリーに掲載されるべきかを決定するための、透明性のある方針決定プロセスを提供する。
要旨出版日:2021年8月
フォーミュラリーに追加できるバイオシミラー医薬品があふれる中、がん領域での採用にあたって最も有益な検討事項は何か?
2009年に米国議会で可決された「バイオ製剤価格競争・インベーション法(BPCIA:The Biologics Price Competition and Innovation Act)」は、バイオシミラーの簡略化された承認プロセスを可能にし、以来、数多くのバイオシミラーが発売され、免疫療法あるいは標的療法の抗がん剤治療や、がん領域での支持療法に幅広い選択肢を提供してきた。
新規の生物学的療法にかかった総支出は、2020年に680億ドルと推定されている。一方、バイオシミラーは、承認と製造プロセスがシンプルで迅速なため、今後10年間で、生物学的製剤の総直接費用を540億ドル削減すると予測されている。費用削減は、医学界におけるバイオシミラー使用に対する信頼性や患者の受容性など、価格競争以外の複数の要因に左右される。
バイオシミラーの開発には、構造と機能の分析と臨床試験が必要だが、必要な臨床試験の数と範囲は、オリジネーターの生物学的製剤に規定されたものよりも少ない。臨床類似性試験では、バイオシミラー候補品とオリジネーターの生物学的製剤との間に、有効性、安全性、免疫原性の点で臨床的に意味のある違いがないことを確認する。切り替え試験では、互換性、つまり、バイオシミラーが、有益な効果を損なうことなく、オリジネーター生物学的製剤の代わりに処方できるというエビデンスを証明する。一旦臨床使用が承認されると、バイオシミラーの市販後の安全性は厳しくモニターされるが、バイオシミラーと基準となる生物学的製剤で報告された有害事象を区別するために、適切なメカニズムの下で行われる必要がある。
P&T委員会は、フォーミュラリーで検討される適応症が、総体としてのエビデンスによって正当化されているか検討しなければならない。P&T委員会は、バイオシミラーの臨床試験に含まれる高感度集団に関するすべてのデータを評価し、意図した集団への外挿を裏付けているかどうかを審査しなければならない。また、医薬品の調達費用に加えて、病院のインフラを考慮することも重要であり、これらを含めて、バイオシミラーの完全なフォーミュラリーへの追加を裏付けているかを審査する。最後に、バイオシミラーの実際の導入における課題は克服しなければならないが、多くの場合、医療従事者と患者への教育が必要となる。薬剤師は、バイオシミラーがフォーミュラリーに追加され、それによってがん患者の治療の選択肢を増やすために、重要な役割を担う。
重要なポイント
バイオシミラーには、バイオシミラー候補品とそのオリジネーター生物学的製剤との間に、有効性、安全性、免疫原性の点で臨床的に意味のある差がないことが求められ、市販後の安全性モニタリングも厳しく行われる。バイオシミラーが普及するための課題としては、薬剤費やインフラ費用、医療従事者や患者への教育などが挙げられる。